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キャッチ=22のジレンマについて

 

Catch-22: 50th Anniversary Edition

Catch-22: 50th Anniversary Edition

  • 作者:Heller, Joseph
  • 発売日: 2011/06/23
  • メディア: ペーパーバック
 

 

 

 1.はじめに

皆様は「キャッチ=22」という小説についてご存じでしょうか?この本は1961年にジョセフ・ヘラ―が執筆した本であり、戦争の最中で混迷していく時間と狂気に染まっていく人間を描いた不条理小説です。

 ところで、英語圏スラングa catch 22というものがあります。このスラングの意味はジレンマ,板挟みの状態というものです。当然このスラングの由来は上にある「キャッチ=22」から来ています。というのも「キャッチ=22」の小説中にある軍規22項に「狂気で無いものを除き、部隊全員は出撃任務を続けないといけない。また、出撃拒否を願う場合、本人の申し出で無くてはならない。」というものがあり、ある兵士が「出撃が続き、私は狂気である。出撃の免除を願いたい」と言ったところ、上官が「自分が狂気であると認識できる程度にあなたは正気である。よって出撃しなければならない。」と言った内容の会話をするところがあり、そこから自分が正気であっても狂気であってもいずれにせよ出撃しなければならないという板挟みの状況から「a catch 22」という言葉が生まれました。

 2.「a catch 22」とは

現実にも「a catch 22」ーいわばどっちを選んでも結論が同じとなってしまう状況が多数存在します。例をあげましょう。

ex1)今の実力で私が受かる大学はないから受験しない。もし私でも受かるのであれば、そんなレベルの大学に行く意味はないから受験しない。

ex2)私に惚れない女性と付き合いたくない。しかし、私に惚れるようなおかしな女性とは付き合いたくない。

ex3)あなたにはこの話は理解できないので話さない。もし理解できるようならわざわざ話す意味がないので話さない。

 以上の例のようにあなたも「a catch 22」を見かけたことは少なくないでしょう。さて、ここでは「a catch 22」的な状況に遭遇したときの対処法を考えてみましょう。まずそれに先立って「a catch 22」というものを言語化してみましょう。「a catch 22」と言うのは

 ある状態A,B,C,D,Eが存在し、AならばBのためCになるとします。しかし、A,Cの性質のために非AからでもDのためにCになってしまうため、Aでも非AでもいずれにせよCになってしまい、Cとなることが不可避である。

 と言語化することができます。*1こう書いてしまうと確かに「a catch 22」は非常に強固なものに見えます。さて、これの対処法にはどのようなものがあるでしょうか?考えていきましょう。

3.「a catch 22」への対処法

3-1.諦める

 最も多くの人が採る行動のように思われますが、これでは残念ながら「a catch 22」の状況を打破することは出来ません。そこで他の方法を考えてみましょう。

3-2.論理的に向き合う

 おそらく一番最初に思いつき、そしてそれなりに打破する効果のあるものでしょう。例えばex1)の場合では、「あなたの実力的に確実に受かるとは言えないが、統計的に90%以上受かる大学がある。大学でキャリアを積むためにもそこは受けてはどうだろうか。」と返すか、「あなたが受かるからといってそこに行く意味はない、というのは正しくない。入学試験の難易でその大学のレベルが判るという考えは烏滸がましい。」とでも返してみましょう。

 排中律が成立しているように見えるAを攻撃するより論理的に不適当になりやすいBやDを狙い撃つ手法です。もしかしたら素直に受け入れて受験するようになるかもしれません。確かに、この方法はそれなりに有効です。しかし、これは謂わば対症療法に近いものです。おそらくex1)の場合では「90%と100%は違う。だから受験しない。」であったり「世間的に評価される大学と入試問題の難しさには正の相関がある。事実、塾や予備校も(試験の)難関大学の受験生が扱うテキストや教材の方が難しく、授業レベルも高い。」と返されてしまう事も多いでしょう。ジレンマがトリレンマやテトラレンマになってしまい、いつまでたっても「a catch 22」の解決にはつながりません。

 また、Aを攻撃してみるのも手の一つです。意図的にAと非Aと書いてますが、これで全ての事象を説明できているわけではありません。俗にいう「誤った二分法」と言われるものです。つまり今まで意図的にAと非Aと書いていましたが、現実では決して選択肢は二つだけではなく多数存在します。そこを突いてみるのも良いかと思います。ただし、これは本当に二つの選択肢しかない場合(「キャッチ=22」の小説内の場合など)には通用しません。

 また、論理的な対応全般に言えることですが存在してはいるけど実質取る事の出来ない選択肢があり、その結果としてAか非Aのただ2つしか選択肢が存在しないという、現実への適応の難しさという問題も立ちふさがります。(勿論、有効な手であることは事実。)

3-3.論理を捨てる

 ジレンマ、パラドクス、矛盾というのは自分と相手が同じ論理体系にいるから発生し、悩むのです。相手の思考レベルが下がらないならこちらの思考レベルを下げましょう。

 ex2)では「うるせえ。結局都合いい女が欲しいだけだろバーカ!!!!!!」って言って鼻っ柱ぶん殴れば勝ちです。「キャッチ=22」でも上官を射殺すれば勝ちです。論理に乗っ取らない行動をする人間に論理学は勝てません。しかし、こんな行動をしている人間に他のまともな人間は近づいてきませんね。ただex2)みたいに行動しようとしない型の「a catch 22」に対して、こちらが先に行動して対応を強要する姿勢は極めて有効です。これが良い解決かと言われると怪しいところですが。

4.終わりに/その他

 以上を見れば判る通り根本的に「a catch 22」を解決するのは簡単ではありません。発言主自体を抹殺すれば確かに議論は終わりますが、それはジレンマを解消したとは到底言えないでしょう。

 さて、現実問題としてあなたの前に「a catch 22」的な状況が発生した場合、あなたは1~3の方法のうちのどれを選ぶのでしょうか?どれを選択するかでこれから先、あなたの人生は変わるかもしれませんし、変わらないかもしれません。僕のおススメは最初は2を使い、めんどくさくなったら3に切り替える方法です。*2私がこの文章で言いたいのは論理の認知度合いで三竦みが発生するのでは無いか、ということです。

 つまり、『論理に疎いもの』、『一般レベルの論理を知るもの』、『論理に強いもの』で『疎いもの』は『一般』に犬猿されるが『強いもの』のロジックが理解できずその点で悩まないため強い、のような関係性が成り立つのではないか、と思いました。

 ま、実際のところ『論理に強いもの』が『論理に疎いもの』の相手をするかは別ですけどね。微妙に成り立っていないような気がします。どこか別の機会に『無知』,『平凡』,『知性』の三竦みについては是非とも考察してみたい所存です。なんかグダグダと書いているうちに3000字に達しそうなので今回はこの辺で筆をおきます。内容に疑義がありましたらTwitterかブログのコメント欄にお願い致します。それではっ!

 

 

 

 

*1:但しここでは、A∨非Aで全ての事象を表せているわけではないことがある事に十分注意が必要です。何を言っているかは後述。

*2:おそらく多くの方が自然と行っているとは思うが