物理のエッセンスとの向き合い方
- 1.はじめに
- 2.私と物理のエッセンス
- 3.物理のエッセンスと「8,9,10」
- 4.物理のエッセンスと「1,2」
- 5.メインとしての物理のエッセンス
- 6.サブとしての物理のエッセンス
- 7.物理のエッセンスの各分野を見つめなおす
- 8.おわりに
- 9.参考文献
1.はじめに
インターネット上で絶賛されたりボロッカスに言われたりと何かと話題になる奇書、物理のエッセンス。賛否両論ありながらも非常に売れているだけあって、多くの人が一度は目にした事があるだろうと思います。絶賛する側の意見としては「まとまっていてわかりやすい」、「高校物理を理解しやすい」というものがある一方、批判する側の意見としては「エッセンスと標榜しておきながらその実ただの公式集以下」、「説明不足」、「3Dメガネ」等があげられています。絶賛する側の意見をもっと読みたい方はAmazon、批判する側の意見をもっと読みたい方はTwitterなんかを漁るとよいでしょう。
ところで、何故か知りませんが物理のエッセンスを信奉するものは口を揃えて「君は物理のエッセンスを正しく使えていない」と言う人が多いように思っています。しかしながら、「正しい使い方」って何だ、と調べても出てくるのは3周して...、だったり、わかるまで...だったりとどの参考書でも言えるようなありきたりの事しか書かれていませんでした(私の調べ方が悪いのかもしれませんが)。「正しい使い方」が本当に前文で書かれた通りのことであるならば、そんなことは誰にでも出来るし、Twitter上や5ch等で少なくない人数に「地雷」としての扱いを受けるようなことはないように思います。
ここでは私がどのようにして物理のエッセンスを使ったのか、物理のエッセンスは何故「地雷」扱いされるのか、物理のエッセンスの各分野について思うこと、物理のエッセンスの「正しい」使い方とはなんなのかについて書いていきます。
2.私と物理のエッセンス
私が物理のエッセンスを買ったのは高校2年生の4月でした。用途としては、定期テスト対策に教科書代わりとして使っていました。暗記嫌いな私には、正直言ってあまり出来の良くない参考書という印象が強かったです。というのも導出が簡単なものや、導出出来なければならないものまで(導出過程を省略して)取り敢えず公式としてバーンと結果だけが乗っているような形になっていたり、公式とすべきでないものまで公式となっていたり*1しているところが気に入らなかったです。それでも何だかんだ高2の3月の定期テストまでは使用していました。一応定期テスト対策程度にはなっていたようです。
3.物理のエッセンスと「8,9,10」
今物理のエッセンスを読み返してみると、昨今の難関、最難関大学で出題されるような、所謂物理の本質を問おうとするような問題に対応できていないように思えます。言ってしまえば時代遅れな参考書の一つであるように思えます。そう思わない方は2020年度の東大物理やここ3年の名大物理を見てください。どちらもエッセンスを使ったただの公式暗記の物理では苦戦を強いられるはずでしょう。もはや物理のエッセンスは「エッセンス」としての価値が無くなりつつあるような気がします。
誤解を招きかねないことを覚悟の上で言います。近い未来(もしかしたらもう既に)、公式暗記して問題演習をやったくらいの勉強では難関大学の物理に対応できない時代がくるでしょう。というのも昨今の問題ではグラフを読み取らせる問題やグラフを描かせる、選ばせる問題*2の増加が代表するように、微積を絡めた数学的な理解も要求するような物理の問題が増えつつあります。2020年の東大物理もその表れだろうと思われます。勿論これだけをあげて独習に数学の力を要求する所謂「微積」物理を勧めることはしませんが、この点において問題の解き方をパターン化することに終始しているだけの物理のエッセンスを勧めることはできません。つまり物理のエッセンスは「8,9,10」を担うにはもはや力不足です。*3
4.物理のエッセンスと「1,2」
では「1,2」を担えるかというとそれも難しいと思います。物理のエッセンスは物理の問題を解くためのエッセンスであるために、「3,4,5,6,7」の教科書レベルに達していない「1,2」レベルの人間には理解がしづらいように思えます。エネルギーの教科書レベル
の理解があやふやな人に、『重力の位置エネルギー U=mgh 基準位置は任意』と書いても、武器の持ち方が判らないのに武器の使い方はこうだ!ど書いているようで噛み合っていません。したがって「1,2」を担うにしたって重すぎます。多分投げてしまうでしょう。
5.メインとしての物理のエッセンス
では物理のエッセンスはどう使うのが「正しい」使い方なのでしょうか?答えは簡単です。他に教材をワンクッション挟むことです。物理のエッセンスには「1,2」や「8,9,10」を担わせるのははっきり言って無茶ですが、「3,4,5」程度ならば不可能ではありません。例えば私のように教科書と併用する使い方、『宇宙一わかりやすい高校物理』のような物理のエッセンスよりも難度が低いものをクッションに挟んで使うというものが考えられます。
しかし、そこまでして物理のエッセンスを使う必要はあるのでしょうか?
確かに昔はこのような「解き方」に注目していてかつ薄く纏まった本はなかったかもしれません。だが、今はそうではありません。例えば今であるならば2019年の12月に出た『物理の解法フレーム』のようにちょっとだけ微積を使うもののより解説がしっかりしていてかつ実践しやすい本が出版されています。
したがってエッセンスの上位互換となりうる物が存在する今のご時世、わざわざ時間をかけてまでエッセンスを使おうとするのはナンセンスです。
6.サブとしての物理のエッセンス
単体の参考書として使うべきでないとすると、どのように使うと物理のエッセンスが最も活きるのでしょうか。それはまとめノート代わりに今までの振り返りとして使うということです。特に、「微積」物理で物理を理解できたと思っている人、難関大学を受ける人は確認がてら物理のエッセンスを読んでみてください。物理のエッセンス本体の解説は薄っぺらい上、読めば読むほど頭が悪くなる特別仕様なので深読みはせず、さらっと読んでいってください。物理のエッセンスに載っている事柄は、知らなきゃヤバいレベルなので、ここに載っていてかつちょっと怪しいな~という箇所はあなたの明確な弱点です。しっかりと他の参考書で復習してください。エッセンスレベルに達していないということがないように勉強を積み上げていくと物理を解く力がついてきます。
個人的に物理のエッセンスの最も優れている点はなまじ流通量が多いためBook Offやメルカリで投げ売りされていたり、君の友人が持っていたりと極めて容易に入手できることです。ただに近い値段で入手できる点は他の参考書にはない明確な利点と言えるでしょう!したがってこれゴミだな、カスだなと感じても金銭的な被害は極めて軽微で済むばかりか、立ち読みすれば金銭的な被害は発生しません。
また、やたらと普及しているため、(せいで?)親戚や仲のいい人の受験が終わったときに参考書をくれというと、80%くらいの確率で入手することができます。僕の家を漁ったら赤い方が4冊、青が3冊ありました。誰かもらってくれませんかね。*4タダに近い値段でまとめノートが手に入れやすいというのは、かなり便利だと思います(これは『物理の解法フレーム』に明確に勝っている点である)。
7.物理のエッセンスの各分野を見つめなおす
さて、まとめノートとして物理のエッセンスを見てみましょう。まずは力学分野です。力学の問題はどのような問題であれ、始めの第一歩は運動方程式を正確に記述し、拘束条件を考え、時間的追跡若しくは保存則*5を記述し答えを導き出すというのが問題を解く基本姿勢ですし、その方針ならエッセンスにも載っています。ただ『摩擦,抵抗なし⇒力学的エネルギー保存則』のように無理くりパターン化する姿勢は難関大学でカモにされかねないので良くない記述だとは思いました。こういうところが「地雷」扱いされる一因なのでしょう。また単振動に関する記述はいくらなんでも少なすぎますし良くありません。『つり合いの位置を原点としてx軸をとる。』かどうかは問題によります。*6また、単振動であるかどうかはの証明という部分は正直意味不明でした。加えて、空気抵抗の記述がないのがいただけませんでした。しかし、他は必要最低限レベルのラインのことは書いてあるのでまとめノートとして仕事はするでしょう。
続いて波動分野です。波動分野も普通に使おうとすると解説のスカスカさから独習する際は多大なストレスを与えますが、まとめノートとみると話が変わります。波動分野は幸か不幸か公式となりえるものがさして多くないのが幸いし図の多い物理のエッセンスの良いところが出て比較的読めるしそこそこ使えるものとなっています。物理のエッセンスでは評価できる部分です。
熱分野を見てみましょう。熱分野の記述はシンプルに古くあまり参考になりません。そもそも熱分野は熱力学第1法則と比熱程度くらい纏めてあればあとは問題演習を積む分野なので物理のエッセンスがあろうとなかろうとどっちでも良いです。
原子分野はどうでしょうか。原子分野は他の参考書ではやたらと冗長な記述が目立つのに対し、必要最低限しか書いていない物理のエッセンスはかなり使いやすく思います。また、大学範囲の天下りで構成されている関係で、原子分野では難問が出ることはあまりなく、物理のエッセンスくらいのレベルが頭に入っていれば、意外と入試問題も解くことが出来ます。時間のない現役生,共通テスト直前の復習では選択肢の1つに入れてもいいように思います。物理の好きな人からしてみれば物足りないかもしれませんけど...
最後に電磁気分野です。回路方程式のなんの参考にもならない解き方,何故か公式化されている合成容量,合成抵抗,V=vblと公式としている*7,交流の記述全般とゴミの宝庫です。さらっと読むだけで頭が悪くなるので火をつけて燃やしてください。見てはいけません。見ちゃった?あーあ。
真面目に書くと電磁気はダイオード、変圧器を始めとして急に与えられた装置の仕組みを理解して解くような問題が度々出るため、力学以上に様々なパターンがあり公式もへったくれもないにも関わらず、無理くりパターン化しようとした結果、初学者には判らず、経験者には謎の記述ばかりと意味の分からないものが出来上がったのだと思います。正直ここの分野は理系の現役大学生に書かせた方がよっぽど上手くできると思います。
8.おわりに
この記事を書いた理由は簡単で、エッセンスという参考書には良いところと悪いところが混在しているのも関わらず、手放しでエッセンスを褒めるだけ褒めて使い方には禄に触れなかったり、エッセンスを貶すくせして代替となるのが新物理入門や苑田物理など全くベクトルの違うものを勧めたり*8などお話にならないことばっかり言ってる人だらけで呆れたからです。この記事を読んで適切に物理のエッセンスを使って、物理が得意になる人が増えたら嬉しい限りです。そこまでしてエッセンスを使おうとする意味は全く無いがな!
それと、私はこの記事で特定の参考書をマーケティングする意図は全くございません。もしそのように読めてしまったら、それは私、若しくは物理のエッセンスの力不足によるものであります。
ともかく、ここまでの長々しい記事を最後まで読んで頂きありがとうございました。誤字、脱字、内容等の意見などはコメントで頂けると幸いです。またどこかでお会いしましょう。それではっ!!
9.参考文献
・物理のエッセンス 力学・波動
・物理のエッセンス 熱・電磁気・原子
・https://juken-gyakuten.com/2018/03/28/essence-electromagnetism/
『物理のエッセンス 電磁気』で検索したときに出てきた。
・https://hamajimakiyotoshi.web.fc2.com/
物理のエッセンス作者のブログ。一読の価値があるので読んでほしい。特に探究の旅に出ようの部分は物理が好きなら読んで損はしないことを約束する。
*1:この傾向は電磁気分野で顕著
*3:「8,9,10」の試験問題のレベルの想定が大したレベルの大学でなければこの批判は当たらない。が、作者にとってはそうではないことはhttps://hamajimakiyotoshi.web.fc2.com/essensu.htmlでのQ.「エッセンス」の対象偏差値はどれくらいですか?の問いにA.ありません!と答えられていることからも判ります。つまりどのレベルの大学であれ通用すると考えているそうです。
*4:この参考書は青がオス、赤がメスのつがいで勝手に増殖している説については現在検証中である。情報提供者求ム。
*6:多くの場合はつり合いを原点とした事が楽になること自体は事実。
*7:これでは複数の導体棒の問題のときやりづらい。ファラデーの電磁誘導の法則の結果として導出するべき。